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インタビュー/東京すしアカデミー代表取締役・福江 誠
2024年7月5日
2002年、日本初の寿司職人養成学校「東京すしアカデミー」を開校。その代表を務めるのは福江 誠氏です。魚をさばき、寿司を握り、お造りを盛る技術を短期間で習得できるのは「理論に基づいた指導」によるものだから。「挑戦する人の世界は、広がる。」とは、同アカデミーの言葉です。「寿司といえば、富山」が挑戦する世界は、どう広がるのか。奇しくも富山出身である福江氏曰く、必要なことは、きっかけ。本プロジェクトに秘められた可能性について考えます。
10年かけて「寿司といえば、富山」を育てていく計画に共感しました。なぜなら、「東京すしアカデミー」においても、今のスタイルにたどり着くまで、長い年月を費やしてきたからです。自分は富山出身のため、富山の寿司や魚が持つ高いポテンシャルを理解しているつもりですが、これまでは、公にそれをうまく発信できていませんでした。本プロジェクトをきっかけに、何かムーブメントが起こることに期待しつつ、掲げるゴールへの到達も大事ですが、それ以前に、やはり続けることが大事。観光=寿司、明確な指針を掲げることによって、一点突破できる強力なエンジンになる可能性を秘めていると思います。
まず、圧倒的に豊富な魚種が大きな特徴です。個人的には、白身魚や光り物、甲殻類、そして、バイ貝をはじめとした夏の貝類は特に良いと思います。また、全国的に良い魚が東京に流通してしまう中、富山の魚はあまり県外に出回りません。それは、鮮度の問題もありますが、水揚げする量が少ないため、流通する量も少ないのです。ゆえに、富山に訪れなければ味わえない寿司の価値があると思います。また、回転寿司から個人店まで、そのスタイルも様々あり、特に古き良き個人店には観光客も少なく、地元の人がほとんど。そんな中、ここ数年に訪れるのが外国人のイノベーター。彼らは情報のキャッチアップが早く、何がきっかけなのかわかりませんが、SNSにも評価されていないような隠れた名店にも姿を表しています。良質な寿司店がひしめく東京や他県ではありえない状況もまた、富山の寿司の魅力ではないでしょうか。富山には、日本の美食家でさえノーマークな寿司店が潜んでいます。
なかった寿司を食べるきっかけ作りも必要だと思います。寿司店が減少する中、後継者問題と今後の富山の寿司を担う育成も兼ね、ベテランの寿司店をはじめ、ぜひ率先して弟子を受け入れていただきたいと思います。また、寿司職人は稼げるという、職業的ポジションの確立も必要だと考えます。
「東京すしアカデミー」で寿司職人の人材育成に務めていることもあり、学びを通して、「寿司といえば、富山」と協業できればと考えています。県や市、地元の人々とも連携を図り、育成のノウハウを開示し、富山の寿司職人の増加を目指したいです。しかし、技術を身につけても店を持てなければ意味がありません。ゆえに、起業できる支援の仕組みも必要だと思います。ファーストペンギンとなるスタイルサンプルができれば、それをきっかけに富山で寿司職人になりたい、富山で寿司店を構えたいと思う若手が増えるかもしれません。そういった事例をこの場で紹介し、メッセージとして発信していただきたいと思います。
富山だけでなく、全国的に年々漁獲量が減っている中、天然資源に依存するだけでなく、どう魚の価値を上げていくかを考える時代に来ていると考えます。それには、寿司を通して周囲との関係を強固にすることが大切だと思います。例えば、漁師は神経締めなどの技術向上によって魚を価値化し、寿司職人は、それをさらに価値化させた逸品に仕上げる。寿司をきっかけに、関係各所が会話し、議論する場を設け、一体となって富山を盛り上げていくことが必要だと考えます。また、先人たちが生んだ鱒寿司のように、現代における新たな名物を生み出すことも手段のひとつ。昨今では、ある店から生まれた名物に火がつき、それが一気に広がるというSNS時代ならではの現象が起きています。そして、そのスピードは増すばかりです。必要なことは、きっかけ。富山は10年でひっくり返る。そう信じています。
Profile
福江誠
富山県小矢部市出身。東京すしアカデミー株式会社代表取締役兼校長。金沢大法学部卒業後、IT系大手企業勤務を経て、1995年から経営コンサルタントとして寿司業界に関わり、東京の超繁盛店「梅ヶ丘寿司の美登利」「神田江戸っ子寿司」をはじめ数々の寿司店の経営改善に取り組む。2002年、日本初の寿司スクール「東京すしアカデミー」を設立し、校長に就任。同校卒業生は、開校以来5,000名を超え、国内寿司店及び海外50カ国以上の日本食レストランで活躍する。「カンブリア宮殿」(テレビ東京)ほか、メディアにも多数出演。主な著書は、「日本人が知らない世界のすし」(日本経済新聞出版社刊)。
Photograph:JIRO OHTANI
Text:ONESTORY