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インタビュー/NEWPEACE 代表取締役CEO・高木新平

2024年8月23日

賛否は覚悟の上。関心や議論の先にビジョンは花ひらく

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賛否は覚悟の上。関心や議論の先にビジョンは花ひらく

未来志向のブランディング方法論「VISIONING」を提唱する、「NEWPEACE」代表取締役CEOの高木新平氏。これまで培ってきた知見を活かし、自身の出身地でもある富山県に寄与すべく、2021年より富山県成長戦略会議委員として、富山県成長戦略のPR戦略設計やクリエイティブのディレクションに従事。ブランディング戦略チームの座長を勤めた後、2023年に富山県クリエイティブディレクターに就任し、「寿司といえば、富山」の発起人です。しかし、そもそもなぜ寿司? そんな素朴な疑問からこれからのことまで、プロジェクトの全貌に迫ります。

 

Q1 「寿司といえば、富山」を提唱しようと思ったきっかけは何ですか?

観光に行きたい都道府県ランキング、いつか住みたい都道府県ランキングなど、日本全国を対象とした多くのランキングがありますが、富山は、概ね真ん中かその前後に位置しています。上位や下位は、良くも悪くもちゃんと県や地域の特色が認知されています。ゆえに、好き嫌いがはっきりしているのです。逆に真ん中は、穴埋めの最後。つまり印象がないため、判断がつかないということだと考えます。この状況に危機感を覚えました。県は、成長戦略会議の議論を踏まえ、「幸せ人口1000万〜ウェルビーイング先進地域、富山〜」を掲げています。これは、県内だけでなく、県外も含めた関係人口を目指しています。しかし、この数字を達成するためには、少なくとも数千〜1億の関心人口が必要。富山は、立山連峰や富山湾など、自然や地形、水や食材に恵まれています。それが富山の最たる魅力なのですが、抽象度が高く、他県との既視感も否めません。そう考えた時、山から生まれる米や酒、海から生まれる魚、歴史を紐解けば加賀前田家のものづくり、これをひとつの体験価値として結実している具体は、寿司だと思ったのです。寿司は、日本人を対象とした好きな食べ物ランキング1位、そして、訪日外国人を対象とした滞在時に食べた日本料理でも1位です。2位以降の入れ替わりはあれど、寿司は、約30年、1位の座に君臨し続けています。この結果を見るだけでも、関心人口に繋がると思いました。県民の方々は、他所の人に富山のことを聞かれると、「なにもないちゃ」と答える控えめな性格が多いのですが、10年かけて、「寿司」と答えられる状況まで持っていきたいと思っています。

 

Q2 「寿司といえば、富山」で、一番大事にしたいことは何ですか?

様々な目標やゴール(「寿司といえば、富山」トップページ参照)を掲げていますが、自分が一番大事にしたいことは、県民の方々に関心を持っていただくことです。寿司って富山県民にとっては身近で自分ごと化しやすい食だと思うので。「寿司といえば、富山」を実現することは、一見難しいと思うかもしれませんが、意外とそこに振り切って認知取れている地域ってないんです。だから実はやったもん勝ちだと思ってて。もちろんすぐに結果を出すことは難しいですが、皆さんと一緒に思い込んで、取り組みし続けた10年先にはどんな未来が待っているでしょうか。かく言う自分は、本気で達成できると思い込んでいます。繰り返しですが、それには県民の方々の関心と協力が必須なんです。

 

Q3 「寿司といえば、富山」は、どんな活動をしていくのですか?

大きく3つあって、普及啓発、人材育成、環境整備の活動(「寿司といえば、富山」トップページ参照)をしていきます。一番肝になるのは人材育成だと思ってます。富山県に寿司屋は沢山ありますが、多くの現場では人材不足が深刻です。産業を盛り上げていくためには、新しい作り手の集積が不可欠で、それが新しい価値になる。そのために、寿司職人育成学校と連携したり、外から寿司職人になりたい人を集めるような留学制度など展開したいと思ってます。また同時に普及啓発も重要で、「寿司といえば、富山」に関連する人やお店の発信や、「SUSHI collection TOYAMA」や回転寿司フェスのようなイベントもやっていきます。ニュースを出していくことで国内外での認知を高め、「寿司=富山」を結実したいと思います。例えば、ナポリといえばピザのように、ピザ職人が修行を目指す本場として、また人生で一度は行ってみたい観光地として、ナポリは認知されています。富山もグローバルで「寿司と言えば」を目指したいと思っています。

 

Q4 「寿司といえば、富山」で、印象的なエピソードがあれば教えてください。

まず、「寿司といえば、富山」を発表した際、多くの方々から反響をいただきました。「海側に偏った意見だ」などという県内からの厳しいご意見から、「ぜひ一緒に協業したい」などという県内外の企業からのラブコールまで、まさに賛否両論。その中に、「本当に寿司で人を呼べるのか」という声がありました。これを聞いた時、県民にとっては寿司が身近過ぎてしまい、その価値の認識に都心の感覚とズレがあると思いました。東京の生活が長くなってしまった自分は、富山出身とはいえ、都心の感覚で物事を考えていたのだと気付きを得たエピソードです。「寿司を食べるためなら遠くにもいくし、お金も払いたい」という人は、想像以上に多く、改めて、富山の寿司の可能性を県内外に伝えたいと思った印象的な出来事でした。

 

Q5 「寿司といえば、富山」のゴールは何ですか?

10年後、「寿司」でイメージする都道府県で富山県を回答する割合を、8.9%から90%にすること、そして、富山の「寿司」を友人などに積極的に勧める県民の割合を45.3%から90%にすることをゴールに掲げています。もちろん、この目標は大事なのですが、個人的に目指しているゴールもあります。例えば、県全体のビジョンとして「幸せ人口1000万〜ウェルビーイング先進地域、富山〜」を掲げてますが、関係人口は、県内外=日本だけではなく、台湾や中国、シンガポールなどのアジアやパリやロンドン、ニューヨークなどの欧米各国含め、世界とも繋がりたいと考えます。もしかしたら、海外の三つ星シェフやレストラン関係者が富山の魚を起用する日が来るかもしれませんし、海外のシェフが富山でお店を開業したいと言う日もくるかもしれません。そういうところから寿司の新しい解釈が生まれる可能性もあります。誰もがSNSを使う現代だからこそ、世界と繋がることは難しくなく、これらも夢物語ではありません。「寿司といえば、富山」が成長するには、民間企業との連携は欠かせず、職人なくして産業は成熟しません。富山が持つ本当の魅力は、地形であり、自然であるため、「寿司」と断定した表現においての賛否があるのは覚悟の上。全てを受けいれる所存ですが、議論しなければ、その先に広がるビジョンは拓けません。富山をより良くしたい気持ちは一緒のはずです。今はまだ産声を上げたばかり。10年後、県民の方々と「富山最高!」「富山出身で良かった!」と語り合えることが自分のゴールです。

Profile

高木新平

富山県射水市出身。株式会社博報堂を経て、2014年に株式会社NEWPEACEを創業。未来志向のブランディング方法論「VISIONING」を提唱し、これまで数多くのスタートアップや新市場のブランド開発に携わる。2021年より、富山県成長戦略会議委員として、富山県成長戦略PR戦略設計やクリエイティブのディレクションに従事。ブランディング戦略チームの座長を勤めた後、2023年に富山県クリエイティブディレクターに就任。

Text:ONESTORY