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更新日:2021年2月24日
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富山県産業教育審議会(平成12年10月24日)
富山県知事 中沖豊殿
富山県教育委員会 委員長 八木近直殿
富山県産業教育審議会 会長 中尾哲雄
本審議会は、平成11年1月20日第21期富山県産業教育審議会において諮問のあった標記事項について、産業社会の変化が職業教育に及ぼす影響について考察するとともに、専門学科で育てるべき能力は何かを検討しました。そして、体験的・実践的な学習をさらに充実させる方策及び、地域・産業界との連携をさらに強化する方法についても協議しました。また、県民に対して、学校・学科に関するニーズ調査を行い、学校・学科の将来的な在り方について慎重に審議を重ねた結果、次のとおり結論を得たので、ここに、本県職業教育の改善・充実の具体的方策をまとめ、産業教育振興法第12条の規定に基づき建議します。
高等学校における職業教育は、生徒一人一人の持つ能力や適性を伸ばし、将来、職業を通して社会に貢献していこうとする意欲と態度の育成を目指している。職業に関する専門学科(以下、専門学科)では、実験や実習等の体験的な学習やものづくりなどの実践を通して、自信を深め、自己の進路を切り拓いていく生徒が多い。
本県の専門学科は、これまで中堅技術者や事務従事者等を育成し、地域産業の発展を支えるとともに、若者の地元定着にも貢献してきた
しかし、近年、情報化の進展や技術の高度化など、産業社会をとりまく変化はますます加速化し、専門学科における教育にも大きな影響を及ぼしている。本県では、新しい教育内容を積極的に取り入れたり、変化に対応した学科改編を実施したりしながら、職業教育の改善・改革を行ってきた。今後、専門学科に学ぶ生徒たちが、さらに激しく変化すると予想される産業社会を生き抜いていくには、職業人として必要な基礎的・基本的な知識・技術を身につけた上で、職業生活を通して、生涯にわたり学び続けようとする姿勢を養わなければならない。
また、産業社会の変化に加えて、生徒数の減少が職業教育に及ぼす影響も大きくなっている。中学校を卒業する生徒の数が平成元年度から減少に転じ、本県高等学校の学級数の減少を引き起こし、専門学科においても、この10年の間に募集停止になる学科がいくつも生じた。また、近年、大学等への推薦入学の道が広がり、専門学科からの進学者が増え、卒業生の半数以上が上級学校へ進学する学校・学科も見受けられる。
こうした状況をふまえて、現在の学科の枠組みや教育課程など学習の仕組みを柔軟で弾力的なものに変えるなど、専門学科を魅力あるものにすることが求められている。こうした時代の変化に対応した専門学科を構築することによって、たくましい職業人が育成され、活力ある本県産業を支える人材づくりが促進されると期待できる。
情報通信をはじめとする科学技術の急速な高度化は、生産・流通・消費の仕組みそのものを大きく変えつつある。また、人口高齢化の進行により福祉関連などの新たな産業が台頭したり、従来の基幹産業が停滞したりするなど、産業構造にも大きな変化が見られる。
他方、外国企業の参入や雇用・給与制度の急激な変化は、職業に対する人々の考え方に大きな影響を及ぼしている。
こうした産業社会を取り巻く変化は、職業教育の在り方について、様々な見直しを迫っている。
コンピューターをはじめとする情報機器の高機能化と情報通信基盤の整備によって、インターネットを活用した電子商取引や様々な情報サービスの授受が日常的になるなど、情報化が社会に及ぼす影響が多大であることから、この急激な進展はIT革命と言われている。
今後IT化が著しく進むと考えられる産業社会を担う人材の育成にあたっては、情報機器や情報通信ネットワークを活用できる能力を養うことが不可欠である。
情報通信、福祉、環境などに関連した新しい産業の台頭や業種間の融合化などによる近年の産業構造の変化、科学技術の急速な高度化には著しいものがある。
このように激しく変化する産業社会において職業を通して主体的に生き抜いていくには、各専門分野に関する基礎的な知識・技術を身につけるとともに、時代にあった新しい技術を積極的に学ぶことが大切である。
近年、物質的豊かさとも相まって、職に就くことを先送りにする者や職業に生きがいを見い出せない者が増えるなど、若者の就業意識に変化が生じている。その変化は、高等学校卒業後にフリーターを希望したり、就職した生徒の約4割が、3年以内に離転職したりするなどの現象に現れている。
こうした中で、高等学校の職業教育においては、生徒が自らの興味・関心、能力・適性を的確に把握した上で、主体的に職業を選択し、職業を通じて生涯にわたり自己実現を図ろうとするしっかりとした考え方が持てるように、ガイダンスを計画的・組織的に行うことが求められている。
これからも激しい変化が予想される産業社会を生き抜いていくためには、生徒が学ぶ楽しさを知り、自ら意欲的に学ぶ態度を身につけることが大切である。そのためには、体験的・実践的なものづくりやサービスなどの学習を通して、学んだことが地域社会や身の回りで役立つという成就感や目的意識を持たせるなど、学ぶことの意義や大切さを実感させる必要がある。また、授業の工夫・改善を図り、高校生としての基礎的な学力や一般教養、専門分野の基礎・基本の定着を図るとともに、自主性や責任感、職業人としての資質や能力を育てる必要がある。
社会の変化や技術革新に伴って生産・流通のしくみや業務内容がどのように変わろうと、幅広い教養や豊かな人間性を養うとともに、ものづくりやビジネスの基本技能を身につけていることは、職業人として生きていく上で不可欠の条件である。
このため、生活に密着した製品の製作や商品化可能な食品の加工、マーケティングや接客マナーの体得などの体験的・実践的な学習を通して、ものづくりやサービス提供の楽しさ、喜び、さらにその役割や意義を感じとらせることが必要である。
現在では、どの産業分野においても、計測・制御・デザイン・事務処理などあらゆる場面で情報機器の活用が進んでいる。このため、生徒が各種ソフトウェアを用いてマルチメディア情報等を活用する学習活動を拡充することによって、想定される様々な場面で、情報機器を使いこなす能力の育成を図る必要がある。
また、このような情報活用能力を育成するだけでなく、知的所有権や情報セキュリティーについての認識を深めるなど、情報社会の新たなルールや正しいモラルを身につけさせることが必要である。
インターネットの急速な普及に伴って、大量の情報が流通するようになった。これからの職業人には、この大量の情報の中から必要な情報を収集し、目的に応じて加工を施すとともに、自らも新しい情報を的確な形で発信していく能力が求められる。
このため、情報通信ネットワークを活用して、バーチャル教室で企業や他の学校と共同研究や情報交換を行ったり、バーチャルショップを開いて、国内外の学校と商取引を行ったりするなどして、実践的な学習機会を一層充実させるべきである。
情報通信ネットワークや情報機器が急速に普及している中で、それらを活用する能力を高めるとともに、コンピューターの機能や構造を理解し、コンピューターシステムを構築する能力や通信ネットワークの仕組みを理解し、ネットワークシステムを管理・運用する能力を養うことが必要である。
このため、学科によっては、基本情報技術者試験やシステムアドミニストレータの資格取得等を活用して、授業や実習を高度情報技術に対応した内容にする必要がある。
バイオテクノロジーや新素材、メカトロニクスなどは、21世紀の産業、社会を支える先端技術として大きな期待が寄せられている。特にバイオテクノロジーは、生物や生体の反応を利用する技術として、農林水産業、医薬品製造業、化学工業、食品工業等の多くの産業に関連する技術であり、1次産業から3次産業までの広い分野にまたがる応用が可能な先端技術である。また、環境や福祉、健康・レジャーなどの新しい産業分野が著しく成長するとともに、流通・生産・消費システムにおいてビジネスの新しい仕組みの構築が進んでいる。専門学科においては、こうした先端技術や新産業分野に柔軟に適応していく資質・能力を養うことが期待されている。
このため、各専門学科で取り組むことができる課題を設定し、「課題研究」などでそのテーマに沿った学習を深めるとともに、大学やその他の研究機関による出前講義や課外実習を受けるなど、関連企業・機関と連携を図り、先端技術・機器、生産や流通に関わる新しいシステムに直接ふれさせ、それを各専門分野で応用しようとする意欲と態度を身につけさせる必要がある。
これまでの職業教育は、ややもすると、将来組織の中で部分的な役割を担うことを前提として進められる傾向があった。しかし、変化が激しく、自己責任の考えが強まる時代においては、新しい価値を追求し、商品開発や技術革新に取り組みながら、自ら経営にも参画しようとする態度や新しく企業を起こそうとする意欲が求められるようになっている。
このため、各学科においては、生徒の課題解決能力の伸長にきわめて効果的な「課題研究」をさらに充実させるとともに、ベンチャービジネスの意義や起業手順に関する学習、企業活動に関するケーススタディなどを取り入れ、コスト意識や経営感覚を養うことが大切である。
変化の激しい時代においては、たえず新しい知識や技術が生まれてくる。職業人として生きていくには、高等学校で身につけた基礎・基本の上に立って、新しい知識や技術を生涯を通じて学び続ける意欲・態度を身につけることが必要である。
そのためにも、各学科の学習を生かした資格取得や各種コンテストへの参加など、学習目標を具体的に提示して、学習意欲を喚起し、学ぶ喜びや学んだ内容の意義を実感させるようにすることが大切である。
また、高度な専門的知識・技術の習得を目指して、上級学校へ進学する生徒が増加していることから、大学進学等にも対応した教育課程の工夫や進路指導の改善・充実を図るとともに、専門学科卒業生の受け入れ枠の拡大について大学への一層の働きかけを行うべきである
社会人として必要な基本的生活習慣やマナーを身につけ、年齢、性別、立場の異なる人たちの中で、互いに尊重し合い、好ましい人間関係を築いていく能力は、社会の一員として生きていく上で不可欠である。
このため、インターンシップやボランティア活動など、様々な人たちと接する機会を拡充したり、実習等の授業の中でもあいさつや職業人としてのマナーが定着するように努めたりすることによって、生徒に円滑な人間関係を築く力や職業人としてのモラルを身につけさせることが必要である。
円滑な人間関係を築くためには、あいさつやマナーのほか、自分の考えを伝える能力が必要であると考えられる。自分の意見を的確に伝える能力を育成するために、ディベートやロールプレーイングを取り入れたり、生徒が自らの学習成果をまとめ、それを発表する発信型の学習活動を増やしたりするなど、日々の授業を工夫・改善する必要がある。
また、産業界においては、海外生産や海外企業との業務提携など企業活動のボーダーレス化が一層進んでおり、実践的な語学力を身につけていることが求められている。このため、ALTとのティーム・ティーチングや外国との電子メール交換を活用するなどして、英語によるコミュニケーション能力の伸長を図らねばならない。
職業教育においては、授業の工夫・改善を図るなどして、職業人としての基盤となる資質・能力を効果的に育てていく必要がある。また、地域・産業界との連携を一層強化し、地域産業の活性化にも貢献できるようになることが望まれる。
産業構造が複合化したり、情報や福祉サービス等の新しい産業分野が台頭したりする中で、専門学科の区分が実際の産業分野と適合しなくなってきていると指摘されている。
また、専門学科から関連分野の大学等へ進学したり、実践的な技術や高度な資格を得るために専修学校等への進学を希望したりする生徒が次第に増えており、「普通科は進学、専門学科は就職」という対比的な捉え方が実態にそぐわなくなっている。
今後、生徒の減少が長期的に続く中で、活力ある職業教育を維持していくには、専門学科の在り方を継続して検討する必要がある。特に、学科の枠組みや学習のしくみ、授業の展開等を柔軟で弾力的なものに変えていく必要がある。
産業構造が変化し、新しい産業分野が生まれている中で、学科編成については、下記の観点で検討する必要がある。また、農業、工業、商業、水産、家庭、看護という現在の専門学科の枠組みが適切かどうか、学科名が実態に合っているかどうかを検討する必要がある。
平成20年までの長期生徒減少期において、各専門学科の学級減は避けられない。
しかしながら、専門学科では、これまで本県の産業界を支える有能な人材を多く育成してきており、今後ともそれぞれの学科が、新しい分野に対応した魅力あるものになるよう、以下の観点で改善・充実を図る必要がある。
法令改正により高校3年間で准看護婦資格の取得が困難になったため、新たに専攻科を設置し、看護婦資格取得を目指す5年一貫の看護教育について検討する。
生徒の多様な個性やニーズに対応して、下記のように、学校や学科の枠にとらわれないで科目やコースが選択できるような弾力的なシステムをつくる必要がある。そのためにも、生徒が教科・科目や進路を適切に選択したり、学校生活によりよく適応したりできるように、ホ-ムルーム活動等を利用したガイダンス機能の充実に努めなければならない。
個々の生徒の興味・適性に応じて多様な授業展開が可能となるよう、適正な人的配置を行うことによって、下記のような少人数指導等を充実する必要がある。
専門学科における学習活動を充実させ、生徒の職業意識を高めるには、インターンシップの充実や社会人講師の導入等により、地域・産業界の教育力を積極的に導入することが重要である。
同時に、生徒の学習成果を地域に還元するなど開かれた学校づくりを進め、地域・産業界とのパートナーシップを確立していかなければならない。このことによって、生徒が地域社会の一員であることの自覚を一層強くし、地元産業に貢献しようとする意欲・態度を身に付けることが期待できる。
生徒は、農園、工場、デパート、福祉施設などにおけるインターンシップにより、職業への理解を深め、その分野で必要とされる技術や人間関係の大切さについて学んでいる。
今後さらにその教育効果を高めるためには、インターンシップを職業に関する教科・科目の指導計画の中にきちんと位置づけ、教育活動として系統性のあるものとしていく必要がある。
当面の課題としては、実習期間の延長や実習生徒数の増加、業種・職種の拡大などへの対応が求められる。そこで、インターンシップ連絡協議会を全県的に機能させ、学校と企業や関係各機関との調整を図っていくことが重要である。
先進的な知識・技術を有する経営者や技術者から講習や実習指導を受けることは、生徒が、専門教科に関する最新の知識や技術を習得したり、望ましい勤労観・職業観を身につけたりする上で大きな効果がある。
また、教師にとっても、研修への動機づけや産業界とのネットワークづくりに役立つなど多くのメリットがあると考えられるので、社会人講師の導入を一層推進することが重要である。
高校生が、小・中学生対象のものづくり教室を開いたり、栽培した作物や加工品を地域の人々に販売したり、また、「課題研究」等で調査・研究した地元商店街の活性化や環境問題の解決策などについて提案・情報提供したりするなど、学習成果を地域に還元する取り組みを一層推進する必要がある。
このような地域に根ざした活動を通して、生徒は学ぶことの喜びを味わい、自分が社会の一員であるという意識を高めることが期待できる。
教員にとって、授業を充実させ、生徒の学習意欲を高めることは、第一の責務である。専門学科では、実験・実習など体験的・実践的な学習を重視していることから、教員は、各専門分野の指導内容について時代の進展に遅れぬよう、自ら情報収集に努めるとともに、学校外の人々との交流によって、社会的な視野を広げるよう努力する必要がある。
教員には、教育内容の見直しを図りながら、生徒にとって必要な基礎・基本を見極める能力とともに、時代に合った新しい専門知識・技術を生徒に教える能力が求められている。
このため、各専門分野についての先進的な知識や実践的な技術を学ぶために、企業、大学、高等専門学校や職業能力開発大学校等での長期研修や他校の教員との交流等を一層推進する必要がある。
生徒の情報活用能力を伸長させるためには、教員が授業において情報機器を効果的に活用できるなど、教員の情報に関するスキルや指導力を向上させることが大切である。
このためには、情報技術に関する研修を充実させるとともに、ネットワークを使って勤務校での研修も可能にするなど、教員が研修しやすい環境を整える必要がある。
また、情報教育を進める上で、情報モラルやプライバシーの保護、知的所有権等についての指導も不可欠であり、それらに関する知識と指導力も身につけなければならない。
今後ますますグローバル化が進展する産業界で活躍する人材には、国際感覚やコミュニケーション能力を身につけていることが求められる。このため、教員自身が、異なる文化や多様な価値観を実感し、理解していることが大切であり、教員の海外研修の機会を拡充することが必要である。
耐用年数の過ぎた施設を使っていたり、新しい学習内容に対応した設備の整備が不十分であったりするなど、学校の施設・設備が産業界の実態と合わなくなっている。専門学科における実験・実習などの学習を、社会の変化や技術の高度化に対応したものにするために、学科の特徴に応じて、必要度の高い施設・設備から順次、改善・充実を図り、各学校の教育環境を整えていく必要がある。
専門学科における情報教育を推進するために、下記のような、ネットワーク化の推進、マルチメディアに対応したハードウェアとソフトウェアの充実など、情報環境の整備を図る。
学校の教育内容が産業界の技術水準とかけ離れないよう、下記のように、各学校の施設・設備の充実を計画的に進める。
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