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更新日:2023年4月10日
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記事公開日:2023年3月8日
プロフィール
写真左下)株式会社IoTRY 加藤哲朗氏
写真右下)イシムラ設備企画J 石村卓也氏
写真左上)プランナー 澤田由貴氏
写真右上)株式会社ModelingX 織田拳丞氏
富山県立大学大学院の修士課程2年に在籍する加藤哲朗氏によって2022年7月に設立された、株式会社IoTRY。、富山県の中小製造業に向けて、センサを使ったIoT技術によるサービスを提供しています。
デジタルツインとは現実空間から収集したデータを用い、仮想(VR)空間に再現する技術のことで、それにより、限りなく現実に近いシミュレーションが可能に。まるで双子のように、リアルをデジタルにコピーすることから「デジタルツイン」と呼ばれています。
――加藤氏:富山県の基幹産業である製造業をなんとか盛り上げていきたいという想いがあり、「Digi-PoC TOYAMA(デジポックとやま)実証実験プロジェクト」に応募しました。大学3年の時に産学連携の研究で、ある工場にIoTのシステムを導入しに行ったのですが、職人さんが床に設置するセンサを保護するカバーを、その場にある素材でサッと作ってくれたのです。それはもう見事な出来で。それをきっかけに富山県の中小製造業のファンになり、センサを使ったIoT技術でお役に立てればと起業しました。
富山県の中小製造業は改善の余地があると考えています。大手と違い、人が介在する作業が多いため、効率化が重要に。効率化のためには作業者への指導が必要ですが、「こうした方がいい」と言われても、それによってどのくらい生産性が改善されるのか、既存のツールではイメージでしかつかめませんでした。しかしデジタルツインなら、作業内容といった細かいところまで再現でき、監督者は根拠が確かなデータをもとに指導ができます。指導される作業者も納得感を持つことができ、自発的に改善に取り組むように。
今回の実証実験が成功したのは素晴らしいメンバーとチームを組めたことが大きかったと思います。採択されてから4ヶ月という短い期間でこの企画を実現するには、それぞれの分野のスペシャリストを集める必要がありました。まずはVRのスペシャリストである石村さんに協力をお願いし、その後、石村さんから製造業で改善業務に携わっていた経験を持つプランナーの澤田さんを紹介してもらい、最後にVRと製造業に通じたプログラマーの織田さんに参加していただきました。
――石村氏:加藤君を見ているとなぜか「助けてあげたい」という気持ちになります。きっと彼だからこのメンバーが集まったのだと思います。
――加藤氏:実証実験の場を提供してくださった株式会社KMCの般若社長には、大学の研究でいつもお世話になっていて、そのご縁で今回も快く協力していただきました。心から感謝しています。
――石村氏:このプロジェクトの中で、いくつか課題はありましたが、一番大変だったのは、CSVからデータを取り出してガントチャート(作業状況を視覚的に捉えるための帯状グラフ)を作ることでした。これは私にとって初めての経験で、澤田さんに相談をしたり、織田さんにデータを直してもらったりしてなんとかやり遂げることができました。大変な作業でしたが、ガントチャートこそ、一目で作業状況が伝わり、改善を助けることができる重要なパーツ。出来上がりを見て、さらには実際に使っていただいているのを目の当たりにして、自分の作業が大きな意味を持っていたことを実感しました。喉元過ぎれば、ではないですが、今では苦労とは感じていません。
――織田氏:ガントチャートを作るために、CSVデータの加工が必要で、僕はその自動化プログラムを作成しました。規則性のないデータの中で、いかに規則性を見つけて、直すのかというところが難しかったです。
――加藤氏:言葉だと難しさが伝わりにくいのですが、これは論文が書けるレベルの技術です。本当に織田さんのプログラムはすごい。
――澤田氏:私が一番難しいと感じたのは、要件定義の部分です。どういう形にしたらわかりやすいのか。どうやったら指導しやすいのか、いろいろな立場のユーザが使うツールなので、落とし所を決めるのが難しく、加藤君といつも話し合っていました。
――加藤氏:とにかく何度もヒヤリングして、作業者そして管理者が使いやすい形を探っていきました。そして使う人たちに抵抗感を持たれないようにシンプルでわかりやすいシステムを作ることを目指し、試行錯誤を繰り返しましたね。
――澤田氏:私は現場改善に関わる仕事もしていたのですが、指導には教える側と教えられる側において共通認識が重要です。見える化のツールを作るのであれば、自分がどこにいて何をしていたのかが一目でわかるような、「リアリティ」が必要ではないかと感じました。
――加藤氏:それを反映したのがアニメーションです。例えば「ドリルの交換」でも、単にキャラクターが機械の前にいるだけよりも、アニメーションで動きをつけてもらう方が視覚的に伝わりやすい。チーム内で何度も意見交換をすることでこれらの課題を乗り越えていきました。
――加藤氏:このプロジェクトに参加して、現場の作業者の意識が大きく変わったことを肌で感じました。デジタルツインの環境を、富山県の中小製造業における現場指導・改善のスタンダードなツールにしていきたいと思います。広がっていったあとは、各地を繋いで、現場指導や協業に活用できるのではないかと想像していますが、これは今後の展望であり、課題であると考えています。
――澤田氏:意識を持って、自分の作業を改善できれば、生産性が上がり、早く家に帰ることができます。これは作業者にとっていいことですが、もちろん会社にとってもいいことです。こうした良い循環はまさしくウェルビーイングと言えるのではないでしょうか。
――加藤氏:一人ひとりが目の前の当たり前から課題を見つけ、自分事だと認識し、解決に向けて取り組んでいく、そうした社会が「ウェルビーイングな世界」だと考えています。データを見て、自らで改善ができるような「デジタル人材」を育成し、そうした社会の実現に役立つようなこれからも提案していきたいと思います。
写真左)株式会社KMC 代表取締役 般若克彦社長
今回の実証実験では、センサで取得したデータをもとに工場の作業環境をVR空間内に再現。モニターやVRゴーグルを通してデジタルツインを見ながら作業の振り返りを行うとともに、作業工程のシミュレーションを活用し、業務の改善を図ります。このツールを利用することで、自らで考え、改善のために行動できるデジタル人材の育成につなげます。
富山県高岡市にある株式会社KMCの工場内で2023年2月13日から17日にかけて行われた株式会社IoTRYによる実証実験。2月16日には株式会社KMCのミーティングルーム及び工場にて、実証実験の様子が公開されました。
ミーティングルームに置かれた大型モニターに映し出されているのは、VR空間にデジタルツインの技術で再現された工場の様子です。アルミの加工を行う機械のうち、3号機(M3)と7号機(M7)、10号機(M10)がある一角がデジタルツインによって再現され、その下には機械ごとの稼働状況がわかる帯状のガントチャートが配置されています。まさしく双子と呼ぶに相応しいほどの再現ぶりです。
冒頭に、株式会社KMCの般若克彦社長から、今回の実証実験のテーマともなった現場の課題について説明がありました。
「現在、小ロットの製品を多種類作る仕事が増えているため、加工方法や資材をその都度切り替える「段取り替え」を何回も行う必要があります。しかし段取り替えをするほど、生産効率が下がるというのが製造業の抱える課題。特に中小製造業では、人員的な状況から1人で2台以上の機械を担当しなければならないため、より段取り替えは複雑になります。そうしたなか段取り替えを効率的に行うことができれば、それは大きな強みになるはずです」
そこで加藤氏らのチームが提案したのは、作業者への指導に使う、振り返りのためのツール。その日もしくは前日までの作業を、作業者と監督者が一緒に振り返り、指導をすることが段取り替えの効率化に求められること。そんな時、センサを活用したデジタルツインのツールを使うことで、視覚的・感覚的にわかりやすく指導を行えるといいます。
実証実験では、隣接する7号機と10号機で作業をする中村さんのデータをセンサで取得し、デジタルツインで再現。翌日の朝、15分ほど、監督者の本村さんと一緒にモニターを見ながら作業内容を振り返り、指導をしてもらいました。モニターには、実際に中村さんがどのような動きをし、どういう内容の作業をしていたかが再現され、合わせてガントチャートで7号機と10号機の稼働状況が一目でわかるようになっています。
午前中に1時間ほど2つの機械が停止している時間があることに着目した本村さん。作業者の中村さんに理由を尋ねると「7号機と10号機の準備を並行して少しずつ行っていた」とのこと。確かにデジタルツインの中村さんは、7号機と10号機の間をこまめに行き来しています。本村さんからは、「どちらかの機械の準備を先に終わらせて動かした後に、もう一方の準備に移るようにしましょう」と指導が。
この指導について、本村さんは「この時間も中村くんの近くで働いていたのですが、「段取り替えで15分ほど機械が止まっているな」というくらいに感じていたので、実際は1時間停止していたと知り、驚きました。現場での感覚だけではなく、後から確かなデータを見ながら振り返りができるのは、わかりやすいし、納得感を持って受け止めてもらえると思いました」と語ります。
さらに中村さんが機械を動かしてから昼休みを入ったことを、監督者の本村さんは高く評価。もし昼休みの間、機械が止まっていたらどれだけ作業が遅れるかを、シミュレーションして見せていました。
この指導に対し、中村さんは「昼休みに入る前に動かしておいた方がいいとはわかってはいたのですが、こうしてシミュレーションでどれだけ効率が良くなるかをわかりやすく見せてもらえて、いい仕事ができたことを実感できました。これからも続けていきたいです」と語ります。
写真左)株式会社KMC 監督者:本村さん 写真右)株式会社KMC 作業者:中村さん
ミニマムな費用と機能で、中小製造業にも導入しやすいツールに
デジタルツインの元となるデータは、機械のシグナルタワー、治具(加工した物を固定して、加工しやすくしたり、位置決めをしたりする補助工具)の交換の時に踏むペダル、作業者である中村さんにセンサを設置し自動で取得していますが、細かい作業内容の判別についてはセンシングが難しかったため、手元にスイッチを設置し、作業ごとに押してもらうという「半自動」の形をとっています。
今回の実証実験では1人の作業者と3つの機械に対してのみデジタルツインで再現しましたが、これを工場全体に拡大していくことも可能です。またデータが溜まっていくことで、熟練工の作業データと比較して作業を評価するなど、監督者がいなくても振り返りができるようになるといいます。
ITにかけられる費用が限られている中小製造業では、こうした効率化のツールは導入しにくい状況でしたが、コストを大きく抑え、導入しやすい形にすることを目指したそう。
「費用面もそうですが、中小製造業では人材面でもIT導入には壁がありました。しかし、こうしたミニマムな形なら、私たちでも使いやすい」と、株式会社KMCの般若社長は高く評価していました。
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人手不足の解消は難しいと思われるので、こういったツールを活用してさまざまな課題を解決するともに、富山県全体でワンチームとなって製造業を盛り上げる仕組みを作っていきたいそうです。後日、行われる最終報告会にて、今回の実証実験の成果を発表する予定。
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