接し方の基本 (具体的なケア )
ここで紹介するケアの工夫は、1例です。
認知症高齢者のケアは、ひとりひとりの状態にあわせて行うことが必要です。
衣服の着替え
認知症高齢者の行動
衣服の前後を間違えて着る。
ひもが結べない、ボタンをかけ違える。
何日も同じ衣服を着て、着替えを嫌がる。
汚れた衣服をタンスや押入れにしまう。
介護のポイント
- 一日の始まりとしてパジャマや寝まきからの着替えをしましょう。
- 着脱しやすい衣服にしましょう。
前後の区別ができるように、しるしやマークやつけたり、着る順番にならべる工夫をしましょう。
- 衣服の上下や前後を間違っても、「これは誰がしても難しいのよ」「こうしたらどう」と決して笑ったりとがめないようにしましょう。
- 「よく似合う」「素敵だ」と少しでも身だしなみに関心が持てるように声をかけましょう。
排泄
認知症高齢者の行動
尿意があってもトイレがわからない。
風呂とトイレを間違える。
トイレに行くまでの間に歩きながらもらしてしまう(失禁)。
濡れた下着を取り替えようとしない。
オムツをはずす。
介護のポイント
- トイレの場所がわかるように、「便所」と高齢者の目の高さに張り紙をする。
- 排泄のパターンを把握する。
食後や排泄パターンにそってトイレに誘導する。
- 夜間でも、トイレの灯りをつけたままにしたり場所をわかりやすくしましょう。
- 尿漏れなどには、吸収力のあるパットや安心パンツなどの利用を勧めましょう。
- 排泄の失敗があっても安易にオムツを使用することは高齢者のプライドを傷つけます。失禁があった場合、すばやく着替えをしてもらうようにしましょう。
羞恥心に配慮しましょう。
- オムツをはずす場合は、その原因を考えてみましょう。-かゆみなどの不快感
入浴
認知症高齢者の行動
入浴を嫌がる。
入浴をしてもからだを洗うことを忘れて出てくる。
どんなに汚れていても手足を洗わない。
歯磨きの仕方がわからない。
介護のポイント
- やさしく言葉をかけ、プライドを傷つけないように時には手まねをして方法を具体的にやって見せることが大切です。
- 浴槽を怖がって、入浴しないことがあります。夏場はシャワーなどを行いましょう。
- 一緒に入浴し、身体を洗ってスキンシップすることで、高齢者が安心感や満足感を覚えることがあります。
- 羞恥心に配慮しましょう。
食事
認知症高齢者の行動
食事がすんだばかりなのに食べていないという。
食べていないのに、食べたからと食事をしない。
食卓にたくさんの献立が並んでいると、どこまでが自分の物かわからず食事ができない。
食べられるものと食べてはいけないものの区別がつかない。
介護のポイント
- 催促された場合、「今、準備をしていますから、もうしばらく待ってください」と納得してもらいましょう。
- 大きな茶碗より、小さな茶碗でおかわりをしてもらうようにすると満足感があります。
- 食事以外に関心を向けましょう。軽作業や散歩も効果的です。
- 食事をしないときは、その理由を考えましょう。
食事のマナーを注意したり、「身体にいいから」とすすめすぎると混乱します。
リラックスして食事ができるように心がけましょう。
- 食事量の少ない場合、脱水症状が心配です。
1日1000~2000mlを目安に食事の汁物や副食、内服薬を飲む際の水を含めて考えましょう。
夏季には、汗などで想像以上に体から水分が奪われています。下痢やおう吐など体調不良のときは、早めに受診しましょう。
- 食卓に食べてはいけない物は置かないようにしましょう。
徘徊
認知症高齢者の行動
他人から見ると「徘徊・迷子」ですが、認知症高齢者にとっては「それなりの理由」があります。
それなりの理由
- 自分の家を、他人の家と間違え帰ろうとする。
- 「○○へ行きたい」と思って出掛けたが、目的地に着けない。
- なんとなく居心地が悪く落ち着けない。現在の住んでいる環境や人間関係の中に不安を感じている。
介護のポイント
- 外に出ようとするときは、無理に引きとめずに高齢者と一緒に出掛け、一回りしてから「さあ、帰りましたよ」と自宅に入る。
- 日頃からなるべく行きたいところに連れて行ってあげたり、散歩に連れ出してあげましょう。
- 家庭に居心地のいい雰囲気を作りましょう。
- 玄関にブザーや鈴をつけて、ドアが開いたらわかるようにしましょう。
- 住所、氏名、電話番号などを衣服の内側などに縫いつけておきましょう。
- 近所の人や駅、交番に、認知症であることを説明し、あらかじめ協力を頼んでおきましょう。
認知症を他人に説明することは、決して恥ずかしいことではありません。
- 徘徊高齢者家族支援サービスがあります。
妄想
認知症高齢者の行動
「物とられ妄想」財布や貯金通帳などをしまい忘れたり、置き忘れたりして自分に物忘れの自覚がないために、人にとられたと思う。
現実にはないことを、本当にあると確信し、間違っていると説明しても全く効果がありません。
介護のポイント
- 本人は、「ない」「とられた」と確信しているので、否定や説得はかえって不信の念を強くし、反発や興奮を招きます。
「ない」という事実を受けとめて「一緒に探しましょう」と高齢者の想いに寄り添うことが賢明です。
- とられることを心配している高齢者には、とられない工夫をしましょう。
- 外出時には、腰につけたり、財布にはひもをつけて首から下げる。
- 内服薬が効果があることも多いので、家族だけで悩まずに精神科医に相談してみるのもよいでしょう。
睡眠障害
認知症高齢者の行動
認知症高齢者の約20%に睡眠障害が見られます。
原因としては
身体:手足の冷え、夜間の排尿回数が多い、かゆみ
精神:不安、焦燥感
環境:入院、転居、介護者の交代
介護のポイント
- 昼間に規則正しい生活が送れるように、散歩、入浴などの適度の疲労もよいでしょう。
- 原因がわかっていれば、その原因を取り除いてあげましょう。
- 不眠が続けば、睡眠薬なども効果的です。主治医や精神科医に相談しましょう。
夜間せん妄
認知症高齢者の行動
せん妄とは、意識障害の一種で、意識がはっきりしない状態で動き回ったり、錯覚、幻覚、不安、恐怖などがみられることです。
ハンガーにかかった洋服を見て人間が立っていると錯覚したり、誰かが殺しにきたと騒いだりします。
原因としては脳の循環障害、脱水状態、全身の代謝障害などの身体の異常があります。
服薬中の薬が原因になることもあります。
介護のポイント
- せん妄状態の時は、部屋を明るくしておだやかに話を聞きましょう。
- 幻覚などの内容が本人から確認できれば、一緒に確かめて安心させてあげましょう。
- せん妄のもとになっている病気を治療することも大切です。
- 内服中の薬が原因になることがあります。主治医の先生に相談しましょう。